会長挨拶
会長挨拶
日本村落研究学会会長 立川 雅司
前任の小内純子会長を引き継いで、2024~25年度の会長を期せずして務めさせていただくことになりました。力不足ではありますが、会員や理事の皆様からのご協力を頂きながら、微力を尽くしたいと存じます。
日本村落研究学会は、社会学、農業経済学、経済史、地理学、民俗学、法学などの諸学が村落という共通の研究対象に学際的にアプローチし、互いに議論し合うという伝統を70年以上にわたって培ってきました。私自身、研究面でも、またこれまで生活してきた環境の面でも、複数領域の境界で過ごしてきましたので、こうした特徴をもつ村研は非常に貴重な場でした。具体的には、社会学と農業経済学の双方に足場を置きつつ研究してきましたし、一時は研究と行政を橋渡ししたり、国際交流活動のなかで海外との橋渡しをしてきました。出身地も、混住化が進む都市と農村の接点のような地域でした。そのためか、見えない境界や、それぞれの世界のルールに注意を向けるようになりました。何が相手の世界の常識/非常識なのかを常に考える習慣が身に付いたように思います。私のような境界人にとっては、学際的な村研の場は、奥行きのある懐の広い学会だと現在も感じております。
ただ、こうした学際性や越境性は、いまやすべての研究領域で不可欠になってきているように思われます。それは村落(やこれをとりまく社会)がこれまでにない事態に直面しつつあり、こうした現象に洞察力や想像力を駆使して立ち向かうことが求められるようになったためだと思います。変化は、農村や地域社会に限らず、気候変動やこれに伴う自然環境の変化にも広がり、これらの見えない相互作用は、かつての村落生活の基盤条件や(都市住民も含む)人びとの心性にも大きな影響を与えているように思います。これまでの常識や概念が参照基準として役立たない場合が増えつつあるなかでは、こうした変化の予兆(見えるものと見えないもの)をどのようにとらえ、どのように理解していくのか、様々な分野間での協力と創造性が求められているといえます。
農村地域は、様々な制度や新技術の実験場にもなってきたことで、常に可能性と共にひずみにもさらされてきたように思います。日本社会の変化の予兆が先んじて顕れる地域でもありますので、研究者に対して常に新たな課題が投げかけられることになります。こうした課題を互いに議論する場に村研が寄与しているのではないかと近年感じています。
村研の活動も、徐々に変化しつつあります。とくに、村研ジャーナルの完全電子化(冊子体の刊行終了)もそのひとつです(2023年10月刊行の第59号をもって冊子体の刊行が終了しました)。かつて紙媒体で届いていた村研通信、村研ジャーナルがともに電子媒体に移行してしまうなかで、学会と会員との関係性が希薄化しないかどうか、注視する必要があるように思います。年報・ジャーナル・通信・ウェブサイトの4媒体を有する学会のメディアをどのように有効に組み合わせていくのかについてはすでに前期で検討されていますが、ジャーナルの冊子体廃止の経験を踏まえつつ、さらに考え直す点が生じるかも知れません。
地区研究会などの研究活動は、大会テーマセッションの準備の場にもなり、会員同士が大会以外で出会う貴重な場となってきました。コロナ禍で定着したオンライン開催は地区を越えて参加できるメリットもありますが、企画ごとに最適な開催方法を今後も考えていくことになろうかと思います。
また村研のさらなる国際化も課題となっており、その一環として、村研ジャーナルへの英文投稿受付に関して準備が進められつつあります。研究成果や活動の英語での発信も、今後ますます重要な課題になると思います。ちょうど2024年秋にはアジア農村社会学会(ARSA)が京都で開催されることになっておりますので、この機会を有効に活用いただけることを願っています。
学会には若手会員も多数在籍していますので、こうした若手研究者の支援も、学会に期待されるところだと思われます。学会には、限られた財源ではありますが、若手研究者支援の仕組み(「むら研究会基金」)もありますので、是非活用して頂ければ幸いです。
3年以上にわたるコロナ禍がようやく収束に向かい、対面での学会活動が再び本格化していますが、オンラインなどの開催方法も一部では活用しつつ、学会をより活発な知的交流の場にできればと思います。オンライン開催は便利な面もありますが、身体性の関与が少ない分、知見の社会的共有や経験の集合的記憶にはつながりにくい面もあります。広さと深さの両面を、学会活動のなかでいかに追求していくことができるかが、ポスト・コロナの現在、問い直されているものと思います。ここにも創造性が求められています。会員の皆様からの積極的な参加とご協力をお願い申し上げます。